【医師が解説】テニスにおける水分補給について【エビデンスあり】

小児科医てつろーです。
みなさん、テニスをするときには水分補給をしますよね。
ただ、何をどれだけ飲めばいいかをきちんと理解されている方は少ないのではないでしょうか?

そこで今回は、論文に基づいてテニスにおける水分補給の仕方について解説します。
この記事を読めば、テニスの練習・試合の際にどのように水分補給をすればよいかを理解できます。

この記事のポイント
・テニスをする際には、最大で1時間あたり2.5~3Lの汗をかくことがある
・自由に水分を摂るだけでは、発汗速度に水分摂取が追いつかないことが多い
コートチェンジごとに200-400ml程度、1時間あたり1.0-1.5Lの水分摂取が望ましい
・運動中の水分は、糖分と塩分が含まれた飲料が望ましい
・運動直後に、糖分とタンパク質を含んだ飲料を摂ることで筋肉の回復力を高めることができる

目次

テニスにおける水分喪失量は?

発汗量は水分摂取量より多い

テニスは屋外の高温環境で行われることが多く、その際に体温上昇および水分喪失が起こります。
高体温および脱水症は、テニスのパフォーマンスを低下させることが知られています(1)。

高温多湿下でテニスを行った場合、テニスプレーヤーは最大で2.5-3.0L/時の発汗が起こりうるとされています(2)。
一方で、飲料の胃内容排出率は1.2L/時を超えることはめったにありません(3)。

発汗量は人体が吸収可能な水分摂取量より多い

水分摂取量の目安は1時間あたり1.0L程度

大学生のテニス選手を対象とした研究では、水分摂取量は1.0L/時程度だったという報告があります(2)。
その一方で、水分摂取量が1.25L/時を超えると、プレー中に胃の不快感を感じる可能性があると指摘されています(3)。

猛暑の時期などは、1.0L/時を超える水分が必要となる可能性もありますが、その際は消化不良に注意が必要と言えます。
数字としてもキリが良いため、水分摂取量の目安は1時間当たり1.0L程度と考えてよいでしょう。

水分摂取は1時間あたり1.0Lを目安に!

脱水が体に与える影響

5%の脱水でパフォーマンスが30%低下する

脱水により、体重が2%低下すると、運動能力が約6%低下することが示されています。体重が5%低下すると、作業能力が約30%低下すると言われています(4)。

脱水による体重減少と運動パフォーマンス

喉の渇きは水分摂取の目安にならない

喉の渇きは、体の水分状態や暑さへの適応に対する十分な指標にならないと言われています(2)。
それは、以下の報告が示しています。

・喉の渇きを感じる前に、1.5Lの水分が失われている(4)。
・テニスの練習試合で自由に水分摂取をした場合、失われた水分の27%しか摂取されなかった(6)。
・わずかな体重減少(3%未満)でさえ、5mと10mの短距離走のタイムに悪影響を与える(1)。

このため、水分摂取は「喉が渇く前に飲む」が原則になります。

水分摂取は『喉が渇く前に』飲む!

どんな水分を摂ればいいの?

電解質の中でもナトリウム摂取が重要

電解質とは、ミネラルの一種です。細胞内の浸透圧や、筋肉・神経の働きに関わる働きをしています。
主な電解質として、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、クロール(Cl)、カルシウム(Ca)、マグネシウム(Mg)などがあります。

引用:大塚製薬 電解質(イオン)とは

電解質の役割
引用:https://www.otsuka.co.jp/nutraceutical/about/rehydration/water/electrolytes/

電解質のバランスは、脱水症、倦怠感、筋けいれんの可能性を下げるために重要です。
特に、ナトリウム(Na)の枯渇は筋けいれんと関連しています(2)。そのため、水分補給と同時にNaを補給することも筋けいれんを防ぐためには必要となります。

大量の低張液(Naやブドウ糖を含まない水分)の摂取と、大量の発汗により、血液が希釈されて低Na血症となる可能性があります(6)。また、普通の水を大量に飲むと、血液の希釈が促進されて水分摂取の意欲が低下する可能性があります(7)。

試合中および試合後の水分摂取量

試合中の水分摂取量については、まだ一定の結論はありません。
吸収速度の観点からは、糖質入りの電解質飲料が浸透圧勾配を高め、水分吸収を促進することが報告されています(2)。

水と電解質飲料による水分摂取の差
引用:https://www.otsuka.co.jp/nutraceutical/about/rehydration/connection/

水分補給のペースとして、15分ごとに200mlの水分が、体液バランスを維持するのに適切な速度であることが示唆されています(7)。この量は27℃の環境で設定されているため、より高温な環境下では液体量を増やす必要があります。

ただし、15分ごとに200mlという量は、高温環境下で失われる水分の半分未満です。
そのため、実際にはコートチェンジごとに200-400mlの水分を摂ることが望ましいと考えられます(7)。

コートチェンジごとに200-400ml程度、1時間あたり1.0-1.5Lの水分摂取が望ましい

体力回復、筋力回復のための糖質摂取

グリコーゲンは、糖質の一種であり、筋収縮のためのエネルギー源となります。
筋肉内のグリコーゲンの合成は、運動直後に最も高くなります(8)。糖質を運動後2時間控えると、運動直後に糖質を摂取した場合と比べて、グリコーゲン合成の速度を47%低下させる可能性があります(9)。
これは、糖質摂取によるインスリン分泌がグリコーゲン合成を促進するためと考えられます。

また、運動後に高GIの糖質を摂取すると、低GIの糖質を摂取した場合と比べて、筋グリコーゲン合成率が48%高くなったという報告があります。

運動1時間以内に1.5g/kgの糖質を摂取すると、筋グリコーゲンの合成に有利と言われています。
また、併せてタンパク質を摂取することで筋グリコーゲン合成はさらに高まるという報告があります(10)。

運動直後にタンパク質を含んだドリンクを飲むと筋グリコーゲン合成が増加する

テニスをするときは、糖分とナトリウム(塩分)を含む水分を摂るべき

まとめ

・テニスをする際には、最大で1時間あたり2.5~3Lの汗をかくことがある
・自由に水分を摂るだけでは、発汗速度に水分摂取が追いつかないことが多い
チェンジコートごとに200-400ml程度の水分摂取が望ましい
・運動中の水分は、糖分と塩分が含まれた飲料が望ましい
・運動直後に、糖分とタンパク質を含んだ飲料を摂ることで筋肉の回復力を高めることができる

水分摂取を適切に行うことで、パフォーマンスの向上だけでなく、回復力のアップや筋けいれんの予防なども期待できます。
効率的な水分摂取でよりよいテニス生活を送りましょう!

参考文献

  1. Meir Magal  et al. Comparison of glycerol and water hydration regimens on tennis-related performance. Med Sci Sports Exerc. 2003 Jan;35(1):150-6.
  2. M F Bergeron et al. Fluid and electrolyte losses during tennis in the heat. Clin Sports Med. 1995 Jan;14(1):23-32.
  3. E F Coyle et al. Benefits of fluid replacement with carbohydrate during exercise. Med Sci Sports Exerc. 1992 Sep;24(9 Suppl):324-30.
  4. L E Armstrong et al. Influence of diuretic-induced dehydration on competitive running performance. Med Sci Sports Exerc. 1985 Aug;17(4):456-61.
  5. Dawson B et al. Physiological and performance responses to playing tennis in a cool environment and similar intervalized treadmill running in a hot climate.  Journal of Human Movement Studies 1985(11): 21-34
  6. M F Bergeron et al. Heat cramps: fluid and electrolyte challenges during tennis in the heat. J Sci Med Sport. 2003 Mar;6(1):19-27.
  7. MacLaren D.P.M et al. Science and racket sports. Nutrition for racket sports II. Lees A., Maynard I., Hughes M, Reilly T.London: E & FN Spon.43-51.
  8. A Bonen et al. Mild exercise impedes glycogen repletion in muscle. J Appl Physiol. 1985 May;58(5):1622-9. 
  9. Ivy J.L. et al. Muscle glycogen synthesis after exercise: effect of time of carbohydrate ingestion. Journal of Applied Physiology 64, 1480-1485
  10. John L Ivy et al. Early postexercise muscle glycogen recovery is enhanced with a carbohydrate-protein supplement. J Appl Physiol. 2002 Oct;93(4):1337-44
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この記事を書いた人

20代医師です。社会人テニスプレーヤーとして、草トーナメントに参加しています。
「大会未経験の社会人テニスプレーヤーが、大会に参加して1勝を目指す」をコンセプトに、テニスを楽しむ方々を応援するブログを運営しています。

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