【医師が解説】筋けいれん予防について【エビデンスあり】

テニスの大会に出て、「足が攣ってしまった」「熱中症になってしまった」などのトラブルを経験したこと、1度や2度はありませんか?
また、これから大会に出ようと思っている方も、これらの試合中のトラブルはできれば避けたいですよね。

そこで、今回は医師かつ社会人テニスプレーヤーである僕が、大会における身体的トラブルの予防について解説します。

目次

筋けいれんとは?

一般的に言う「手や足がつった」状態を、医学的には筋けいれんといいます。
この筋けいれんは非常に一般的な現象であり、大学生547名に対するアンケート調査では、実に92%の回答者が過去に筋けいれんを経験していました(1)。

supo-t筋けいれんの発生部位としては下腿後面(=ふくらはぎ; 62%)、足の裏(42%)、足の指(31%)となっています。また、その要因として筋疲労(46%)、ストレッチ不足(42%)、運動不足(39%)などがあげられています(1)。

筋けいれんの原因は?

実は、筋けいれんがなぜ起こるのかは具体的にはわかっていません
その中でも、いくつかの原因と思われる候補はわかってきています。それらの原因について解説します。

筋疲労

Fatigue after active hard training. Tired guy with dumbbells and fitness ball lies on sofa with closed eyes in living room interior, free space

筋疲労によって運動神経の興奮性が増加し、筋けいれんが起こると考えられています(2)。
また、運動によって生じる水素イオン、カリウムイオン、アセチルコリンなどの代謝産物が神経の興奮性を高める可能性も示唆されています(3)。

また、筋けいれんを起こしやすい人には速筋繊維(大きい力を出せる反面、疲れやすい筋肉)が多いことがわかっています(4)。速筋繊維が多いことで代謝産物が増加し、筋けいれんが起こりやすくなっているとも考えられます。

しかしながら、筋疲労によって筋けいれんが発生することを実験的に証明・検証した研究は見つかりませんでした(2022年3月現在)。

脱水

Embed from Getty Images

脱水も筋けいれんの原因となりうるといわれています。
しかし、マラソン、ウルトラマラソン、トライアスロンの競技中に筋けいれんが発生した人と発生しなかった人において、レース後の体重の減少率、血液量などに違いがみられなかったとする報告があります(5-7)。
つまり、脱水は筋けいれんの要因ではない可能性があります。

一方で、以下のような事例も報告されています。

  • 筋けいれんが発生しやすいテニス選手に対して、日常的に水分と塩分の摂取量を増加させたところ(水分:8オンス≒240ml、塩分:6-8g以上)、筋けいれんが発生しなくなった(8)。
  • 下腿三頭筋(ふくらはぎ)を使う運動を高温下で行うことで筋けいれんが発生した人に対して、電解質(ミネラル、すなわちナトリウムやカリウムなど)を含んだ飲料を摂取しながら同じ運動をさせると筋けいれんの発生が遅延した(9)。
  • 筋けいれんの発生に悩む多汗症の人の腋にボツリヌス毒素(いわゆるボトックス)を注射して発汗量を減少させた結果、筋けいれんの発生が減少した(10)。
  • 6分間の間欠的なサウナ浴を体重が3%減少するまで繰り返し、その前後でスクワット運動を行ったところ、9名中5名に筋けいれんが発生した(11)。

これらの報告は、脱水が筋けいれんを引き起こす可能性を示唆しています。
この機序については、神経筋接合部の間質液が減少することで神経に加わる圧力が増加し、運動神経終末が興奮することで痙攣が起こるのではないかと言われています(医学生なみの専門知識なので読み飛ばしていただいて構いません)(12)。

血中栄養素の不足

Embed from Getty Images

血液中の電解質、タウリン、クレアチン、ビタミンなどの低下筋けいれんの発生に関与していると考えられています。

これらが有効とする報告には以下のものがあります。

  • 妊婦に対するビタミンCまたはカルシウムの投与(13)、ビタミンB1とB6の併用(14)
  • 肝硬変の患者に対する亜鉛(15)やタウリン(16)の投与
  • 血液透析を受けている患者に対するビタミンCまたはビタミンEの単独・併用投与(17)、クレアチンの投与(18)
  • 高血圧の高齢者に対するビタミンB複合体の投与(19)

一方で、筋けいれん時に亜鉛、電解質、クレアチン濃度の差がなかったとする報告もあり(20-21)、明確な結論は出ていません
また、上記の報告はいずれも特定の疾患・体調変化による筋けいれんであり、運動時に発生したものではないことにも注意が必要です。

環境温

高温または低温環境が、筋けいれんを誘発する可能性はしばしば指摘されています。
しかし、それを検証する研究はこれまでに行われていません

また、以下の報告は環境温によりけいれんが起こるという仮説に否定的です。

  • マラソン中に筋けいれんが起きた人と起きていない人で直腸温の差がみられなかった(21)。
  • 高温環境下の安静時に筋けいれんが発生せず、筋けいれんが発生している筋を冷却しても筋けいれんが収まらなかった(22)。
  • 常温においても筋けいれんは発生する(23)。

また、寒冷環境に曝されることが水泳選手やマラソン選手の筋けいれんと関連している可能性も指摘されていますが、科学的な検証は行われていません。

筋けいれんの予防法

これまでに、筋けいれんの原因と考えられる仮説について解説しました。
続いて、筋けいれんの予防法について解説します。

テニスにおける筋けいれんと言えば、有名なエピソードが1989年全仏4回戦、マイケル・チャン vs イワン・レンドルの試合です。この試合は、レンドルが2セットを連取したところからチャンが逆転勝ちする大逆転の展開ですが、その試合中にチャンは足の筋けいれんを起こしてしまいます。

その際、チャンはポイントごとに水分を摂りバナナを食べストレッチやマッサージを行っていました。これらの対策について解説します。

水分摂取

脱水が筋けいれんを引き起こしうることは、多くの研究で報告されています。
また、試合当日だけではなく日常的に水分を多くとることで、筋けいれんが予防できる可能性があります(8)。
上記の研究では、全米の全国レベルのテニス選手が、1日1.5Lの水分と6-8gの塩分を摂ることで筋けいれんが予防できたと報告しています。

バナナ

バナナも、筋けいれんの予防にいいとされています。
プロのテニス選手も試合中によく食べていますね。

Embed from Getty Images

バナナは糖分、カリウム、ビタミンなどが含まれている点が優秀です。
また、バナナの摂取により血圧低下作用(24)、血糖降下作用およびLDLコレステロール降下作用(25)などを認めた報告もあります。

ビタミン剤

夜間のこむら返りに対するビタミンE投与(26)、高血圧患者に対するビタミンB投与(19)、血液透析患者に対するビタミンCおよびEの投与(17)はそれぞれ筋けいれんを減少させたという報告があります。

そのため、マルチビタミン剤の摂取は筋けいれん予防の選択肢となります。
筋トレを行うトレーニーの方なども、マルチビタミンをよく摂取しています。僕が飲んでいるマルチビタミンは、「vitapower」というサプリです。亜鉛などの微量元素も含有されており、多くの栄養素を簡単に摂取することができます。

by カエレバ

注意点として、ビタミンA、ビタミンD、ビタミンE、ビタミンKは脂溶性ビタミンであり、過剰症を引き起こす恐れがあります。そのほかのビタミンは水溶性のため、排泄されやすく体内に過剰に蓄積する恐れは低いです。
ビタミンのサプリメントを摂取する際は、用法用量を必ず守りましょう

カルニチン

透析患者さんに対して、カルニチンを投与することで筋けいれんが予防できたとする報告があります(26)。
カルニチンは脂肪酸代謝に関わり、体内のエネルギー産生に重要な役割を持っています。脂肪酸をミトコンドリア内に取り込んだり、細胞内にたまったアシルCoAなどの老廃物を細胞外に運ぶ働きをしています。

カルニチン欠乏症の症状として、代表的なものに筋けいれんがあります。そのほかに嘔吐、倦怠感などの症状が出現することがあります(27)。

カルニチンを摂取するには、①食べ物から摂取する方法、②サプリメントから摂取する方法、の2つがあります。

  • カルニチンを多く含む食品…肉類、魚介類、乳製品など
  • サプリメント…ハルクファクターなど
by カエレバ

基本的には食事から摂取すれば十分ですが、練習やトレーニングを頻繁に行う方はサプリメントでの摂取を考えても良いかもしれません。

筋けいれんが起きたときの対応

続いて、プレー中に筋けいれんが起きてしまった際の対応について解説します。

経口補水液

経口補水液とは、OS-1やアクアライトといった商品名で、脱水症の際に経口補水療法として用いる飲料です。
スポーツドリンクと比べて電解質濃度(ナトリウム、カリウムなど)が豊富で、糖濃度は低くなっています

成分ナトリウム(mEq/L)カリウム(mEq/L)クロール(mEq/L)炭水化物
【ブドウ糖】
(%)
クエン酸塩
(mmol/L)
浸透圧
(mOsm/L)
WHO-ORS(2002年)7520651.3510245
ESPGHAN6020601.610240
米国小児科学会
経口補水療法指針(維持液)
40〜60202.0〜2.5
OS-1(OS-1ゼリー)5020502.5【1.8】15*(16.2*)約260
スポーツドリンク9〜233〜55〜186〜10
ミネラルウォーター0.04〜4.040.04〜4.04
経口補水液の電解質組成
※World Health Organization https://www.who.int/maternal_child_adolescent/documents/fch_cah_06_1/en/(2020年11月現在)
※※ European Society for Paediatric Gastroenterology, Hepatology and Nutrition: J. Pediatr. Gastroenterol. Nutr.,2001; 33 Suppl. 2:S36-39
※※※ AMERICAN ACADEMY OF PEDIATRICS Committee on Nutrition : PEDIATRICS 1985;75(2):358-361

脱水および電解質の異常は筋けいれんの原因となる可能性があるため、それを速やかに補正できる経口補水液は筋けいれん時の対応として有力です。

ただし、スポーツドリンクと比べて塩味が強く甘みが弱いため、ごくごく飲めるといった類の味ではありません。プレー中に常飲するというよりは、緊急時の対応用として持っておくと良いでしょう。

芍薬甘草湯

芍薬甘草湯は漢方薬の1種で、筋けいれん・こむら返りに速効性のある薬剤です。
「急激に起こる筋肉のけいれんを伴う疼痛」に対する保険適応にもなっています。
芍薬甘草湯を内服すると、平均5.4分で筋けいれんが改善したとする報告があります(28)。

https://www.info.pmda.go.jp/go/pack/5200067D1049_1_15/

ただし、漢方薬にも副作用はあります
芍薬甘草湯の代表的な副作用として偽性アルドステロン症という病気があります。これは、四肢の脱力やけいれん、麻痺などが生じる病気です。
芍薬甘草湯を1日3包以上内服すると、偽性アルドステロン症のリスクが増加するため、芍薬甘草湯を使用する際はけいれん時に1日1包程度までとし、日常的に内服することのないようにしましょう。

まとめ

・筋けいれんの原因…筋疲労、脱水、血中栄養素の不足、環境温
・筋けいれんの予防…水分摂取、バナナ、ビタミン剤、カルニチン
・筋けいれん時の対処法…経口補水液、芍薬甘草湯
・筋けいれんの原因ははっきり解明されていない
・試合の数日前から水分、塩分、タンパク質を多めに摂っておくとよいかも
・芍薬甘草湯は即効性があるが副作用に注意

参考文献

  1. 大野政人, 黒川貞生, 森田恭光:The MGU journal of liberal arts studies, 2008, 2, 37-42, 2008
  2. Schwellnus MP: Skeletal muscle cramps during exercise. Phys Sportsmed, 27, 109-115, 1999.
  3. Lanari A, Muchnik S, Rey N, Semeniuk G: Muscular cramp mechanism. Medicina (Buenos Aires), 33, 235-240, 1973
  4. Telerman-Toppet N, Bacq M, Khoubesserian P, Coërs C: Type 2 fiber predominance in muscle cramp and exertional myalgia. Muscle Nerve, 8, 563-567, 1985.
  5. Maughan RJ: Exercise-induced muscle cramp: a prospective biochemical study in marathon runners J Sports Sci, 4, 31-34, 1986.
  6. Schwellnus MP, Nicol J, Laubscher R, Noakes TD: Serum electrolyte concentrations and hydration status are not associated with muscle cramping (EAMC) in distance runners. Br J Sports Med, 38, 488-492, 2004.
  7. Sulzer NU, Schwellnus MP, Noakes TD: Serum electrolytes in ironman triathletes with exerciseassociated muscle cramping. Med Sci Sports Exerc, 37, 1081-1085, 2005
  8. Bergeron MF: Heat cramps during tennis: a case report. Int J Sport Nutr, 6, 62-68, 1996
  9. Jung AP, Bishop PA, Ai-Nawwas A, Dale RB:Influence of hydration and electrolyte supplementation on incidence and time to onset of exercise-associated muscle cramps. J Athl Train, 40, 71-75, 2005.
  10. Filosto M, Bertolasi L, Fincati E, Priori A, Tomelleri G: Axillary injection of botulinum A toxin in a patient with muscle cramp associated with severe axillary hyperhidrosis. Acta Neurol Belg, 101, 121-123, 2001
  11. 大野政人,野坂和則:筋疲労および脱水が運動誘発性筋痙攣に及ぼす影響.体力科学,53,131-140,2004
  12. Layzer RB: The origin of muscle fasciculations and cramps. Muscle Nerve, 17, 1243-1249, 1994
  13. Hammar M, Berg G, Solheim F, Larsson L: Calcium and magnesium status in pregnant women: a comparison between treatment with calcium and vitamin C in pregnant women with leg cramps. Internat J Vit Nutr Res, 57, 179-183, 1987.
  14. Avser AF, Özmen S, Söylemez F: Vitamin B1 and B6 sub stitution in pregnancy for leg cramps. Am J Obset Gynecol, 175, 233-234, 1995.
  15. Kugelmas M: Preliminary observation: oral zinc sulfate replacement is effective in treating muscle cramps in cirrhotic patients. J Am Coll Nutr, 19, 13-15, 2000.
  16. Matsuzaki Y, Tanaka N, Osuga T: Is taurine effective for treatment of painful muscle cramps in liver cirrhosis? Am J Gastroenterol, 88, 1466-1467, 1993.
  17. Khajehdehi P, Mojerlou M, Behzadi S, Rais-Jalali G: A randomized, double-blind, placebo-controlled trial of supplementary vitamin E, C and their combination for treatment of haemodialysis cramps. Nephrol Dial Transplant, 16, 1448-1451, 2001.
  18. Chang C, Wu C, Yang C, Huang J, Wu M: Creatine monohydrate treatment alleviates muscle cramps associated with haemodialysis. Nephrol Dial Transplant, 17, 1978-1981, 2002.
  19. Chan P, Huang A, Chen Y, Huang W, Liu Y: Randomized,double-blind, placebo-controlled study of the safety and efficacy of vitamin B complex in the treatment of nocturnal leg cramps in elderly patients with hypertension. J Clin Pharmacol, 38, 1151-1154, 1998
  20. Baskol M, Ozbakir O, Coskun R, Baskol G, Saraymen R, Yucesoy M: The role of serum zinc and other factors on the prevalence of muscle cramps in non-alcoholic cirrhotic patients. J Clin Gastroenterol, 38, 524-529, 2004.
  21. Maughan RJ: Exercise-induced muscle cramp: a prospective biochemical study in marathon runners J Sports Sci, 4, 31-34, 1986.
  22. Schwellnus MP, Derman EW, Noakes TD: Aetiology of skeletal muscle cramps during exercise: a novel hypothesis. J Sports Sci, 15, 277-285, 1997.
  23. Schwellnus MP: Skeletal muscle cramps during exercise. Phys Sportsmed, 27, 109-115, 1999.
  24. 増田隆昌:バナナ摂取がもたらす血圧降下、便通促進、精神安定効果 ランダム化単盲検並行群間比較試験, New Diet Therapy, 37, 3-10, 2021
  25. 金澤武道: バナナの生理活性に関する研究, 日本未病システム学会雑誌, 12, 114-116, 2006
  26. Sakurauchi Y, Matsumoto Y, Shinzato T, et al. Effects of L‒carnitine supplementation on muscular symptoms in hemodialyzed patients. Am J Kidney Dis 1998; 32: 258‒64.
  27. カルニチン欠乏症の診断・治療指針 2018
  28. 三浦義孝:糖尿病性神経障害による有痛性筋痙攣(こむらがえり)に対する有薬廿草湯の効果.日本東洋医学雑誌.49(5):865-869,1999
よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

20代医師です。社会人テニスプレーヤーとして、草トーナメントに参加しています。
「大会未経験の社会人テニスプレーヤーが、大会に参加して1勝を目指す」をコンセプトに、テニスを楽しむ方々を応援するブログを運営しています。

コメント

コメントする

CAPTCHA


目次
閉じる